この記事の要点
- 2025年4月、黒ナンバー(貨物軽自動車運送事業)に安全管理の義務が新設された
- 既存事業者の安全管理者の選任・届出は2027年3月31日が期限
- 選任義務違反・届出義務違反には100万円以下の罰金が定められている
- 軽貨物へ委託している元請け・荷主側も、委託先の体制確認が実務課題になる
「うちは緑ナンバーだから関係ない」——黒ナンバーの制度改正について、そう受け止めている運送会社の担当者は少なくありません。ですが、ラストワンマイルを軽貨物事業者に委託しているのであれば、この改正は他人事ではなくなります。委託先が義務を果たしていない状態は、事故が起きたときに元請けの管理責任として跳ね返ってくるからです。
しかも、この制度には期限があります。既存の軽貨物事業者に設けられた猶予は2027年3月31日まで。残された時間は、もう1年半ほどです。
この記事では、2025年4月に始まった貨物軽自動車運送事業の安全対策強化について、何がどこまで義務化されたのか、いつまでに何をすればよいのか、そして委託する側は何を確認すべきかを整理します。
なぜ黒ナンバーの規制が強化されたのか
背景にあるのは、軽貨物の事故の増え方です。国土交通省は、EC市場の拡大で軽自動車による運送需要が伸びる一方、平成28年から令和4年にかけて、保有台数1万台あたりの事業用軽自動車の死亡・重傷事故件数が約5割増加している状況を、制度改正の理由として挙げています。同じ期間、軽貨物以外の事業用貨物自動車では事故が減少傾向にあったため、軽貨物だけが逆行している形でした。
緑ナンバーには運行管理者制度をはじめとする安全管理の枠組みが整備されている一方、黒ナンバーは「届出さえ出せば始められる」参入のしやすさから、体制面の規制が手薄でした。この差を埋めるのが今回の改正の狙いです。
制度の根拠は、2024年5月に公布された「流通業務の総合化及び効率化の促進に関する法律及び貨物自動車運送事業法の一部を改正する法律」(令和6年法律第23号)と、これを受けた貨物自動車運送事業輸送安全規則等の改正です。省令等は2024年10月1日に公布され、事業者向けの規制は2025年4月に施行されました。
新しく義務化された5つのこと
国土交通省が公表している新制度の概要は、大きく5項目です。なお、貨物軽自動車安全管理者の選任、業務記録、特定の運転者への指導・適性診断については、バイク便事業者は対象から除かれています。
| 義務の内容 | ポイント |
|---|---|
| 安全管理者の選任・届出 | 営業所ごとに「貨物軽自動車安全管理者」を選任し、講習を受講させる。選任時は運輸支局等を通じて国土交通大臣に届出 |
| 業務記録 | 毎日の業務開始・終了地点、業務に従事した距離等を記録し、1年間保存 |
| 事故記録 | 事故が発生した場合、概要・原因・再発防止対策等を記録し、3年間保存 |
| 事故報告 | 死傷者を生じた事故等、一定規模以上の事故は運輸支局等を通じて国土交通大臣へ報告 |
| 指導・適性診断 | 特定の運転者(事故惹起運転者・初任運転者・高齢運転者)へ特別な指導と適性診断を実施し、貨物軽自動車運転者等台帳を営業所に備え置く |
安全管理者になるには講習の受講が必要
貨物軽自動車安全管理者になるには、国土交通省が登録した機関で事前に講習を受ける必要があり、選任後も2年ごとの定期講習が求められます。一度受ければ終わりではなく、継続的に更新していく資格である点に注意してください。
車両1台の個人事業主であっても義務の対象です。その場合はドライバー本人が安全管理者となり、自ら講習を受けて選任・届出まで行うことになります。
混同しやすい点:警察署に届け出る道路交通法上の「安全運転管理者」とは別の制度です。貨物軽自動車安全管理者の届出先は運輸支局等で、届出のルートも根拠法令も異なります。両者を取り違えて「届出済み」と思い込んでいるケースがあるため、社内・委託先ともに確認しておくと安全です。
期限はいつか ― 2027年3月31日というリミット
既存事業者には経過措置が設けられていますが、これは「まだやらなくていい」という意味ではなく、期限つきの猶予です。国土交通省は、既存事業者について安全管理者の選任は施行後2年、特定の運転者への特別な指導および適性診断の受診は施行後3年の猶予を設けるとしています。2025年4月施行から起算すると、具体的な期限は次のとおりです。
| 対象 | 安全管理者の選任・届出 | 特別な指導・適性診断 |
|---|---|---|
| 既存事業者 (2025年3月31日までに経営届出) |
2027年3月31日まで | 2028年3月31日まで |
| 新規事業者 (2025年4月1日以降に経営届出) |
猶予なし。速やかに選任・届出 | 猶予なし |
実務上の落とし穴は、「講習を受けたこと」と「義務を果たしたこと」が別だという点です。講習の受講、安全管理者の選任、運輸支局等への届出は、それぞれ独立した手続きです。修了証を受け取った時点で満足してしまい、届出が未了のまま——という状態は、外形上は無選任と変わりません。
また、新規参入の増加により講習の予約が埋まりやすくなっているとの指摘もあります。期限直前に駆け込もうとすると、受けたくても受けられないという事態になりかねません。
違反した場合の罰則
貨物自動車運送事業法では、貨物軽自動車安全管理者を選任する規定に違反した場合、および選任・解任に係る届出をせず、または虚偽の届出をした場合について、いずれも100万円以下の罰金が定められています。金額の大きさもさることながら、行政処分や監査の対象となることで、荷主からの信用に影響が及ぶリスクのほうが実務的には重く受け止められています。
委託する側(元請け・荷主)が確認すべきこと
ここからが、緑ナンバーの運送会社にとっての本題です。宅配やラストワンマイルを軽貨物事業者に委託している場合、委託先の体制不備は自社のリスクに直結します。特に、多重下請構造の是正が制度全体の流れになっている今、「委託先の状況を把握していなかった」という説明は通りにくくなっています。
委託先チェックリスト
- 貨物軽自動車安全管理者を選任しているか(届出まで完了しているか)
- 安全管理者の講習修了証を確認したか。次回の定期講習時期を把握しているか
- 業務記録を作成し、1年間保存する運用になっているか
- 事故記録の様式を用意し、3年間の保存体制があるか
- アルコールチェックを検知器で実施し、記録を残しているか
- 初任・高齢・事故惹起の運転者に、特別な指導と適性診断を実施しているか
- 貨物軽自動車運転者等台帳を営業所に備え置いているか
契約更新のタイミングで確認事項として組み込む、年1回の書面確認をルール化するなど、属人的にならない形で仕組みに落とすのが現実的です。
アルコールチェックと点呼は黒ナンバーも対象
意外と誤解されているのが、飲酒運転対策の適用範囲です。アルコール検知器の使用義務について、国土交通省は貨物軽自動車運送事業者も対象になると明示しています。今回の改正で新設された義務ではなく、事業用自動車として以前から求められてきたものですが、安全管理者制度の導入によって、これらの記録が管理者の職務としてより明確に位置づけられることになりました。
緑ナンバーとの違いを整理する
自社に両方の事業がある場合や、委託先に説明する場面では、緑ナンバーの運行管理者制度との違いを押さえておくと話が早くなります。
| 項目 | 運行管理者(緑ナンバー) | 貨物軽自動車安全管理者(黒ナンバー) |
|---|---|---|
| 資格の取り方 | 国家試験の合格または実務経験+基礎講習 | 登録講習機関での講習受講 |
| 選任の単位 | 営業所ごと。車両数に応じて必要人数が増える | 営業所ごと。車両1台の個人事業主も対象 |
| 継続要件 | 2年に1回の一般講習 | 2年ごとの定期講習 |
| 届出先 | 運輸支局等 | 運輸支局等 |
枠組みとしては緑ナンバーの制度を簡素化した形に近く、「軽貨物にも管理者を置き、記録を残し、教育する」という方向にそろえられたと理解しておくとよいでしょう。
まとめ ― 記録が残っているかどうかがすべて
この制度で求められていることは、突き詰めれば「管理する人を決めて、記録を残す」という2点に集約されます。安全管理者を選任し、業務記録を1年、事故記録を3年保存し、指導・診断の履歴を台帳に残す。監査で問われるのは体制の有無ではなく、体制が動いた証跡があるかどうかです。
そして、その記録が紙とExcelの手作業で回っている限り、担当者が変わった瞬間に運用は途切れます。期限までの残り時間は、体制を整えるだけでなく、続けられる形に落とし込むための時間でもあります。
まずは、自社および委託先が「選任済みか」「届出まで終わっているか」を確認するところから始めてみてください。
本記事は制度の概要をまとめたものです。個別の適用可否や手続きの詳細については、国土交通省の公表資料や管轄の運輸支局にご確認ください。
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サービスを見る参考:国土交通省「貨物軽自動車運送事業における安全対策を強化するための制度改正を行いました」(令和6年10月1日 報道発表)
参考:国土交通省「登録貨物軽自動車安全管理者講習機関の一覧」
参考:国土交通省「自動車運送事業におけるアルコール検知器の使用について」