法改正・コンプライアンス

改正労働安全衛生法「個人事業者等」への対策|倉庫・構内作業で何が変わるか

この記事の要点

  • 2025年5月公布の改正労働安全衛生法で、個人事業者等が法の保護対象・義務の主体として位置づけられた
  • 2026年4月1日、混在作業場所で元方事業者が講じる措置の対象が、労働者から作業従事者全体に拡大された
  • 2027年1月1日には、個人事業者等の業務上災害を労働基準監督署へ報告する制度が始まる
  • 倉庫の構内作業、傭車、軽貨物委託——運送・物流の現場は「混在作業」の典型

倉庫の構内で、自社の庫内スタッフと、荷物を取りに来た協力会社のドライバーと、フォークリフトを動かすオペレーターが同時に動いている。運送・物流の現場では、ごく当たり前の光景です。

この「混在作業」に対する安全衛生のルールが、いま大きく変わりつつあります。2025年5月に公布された改正労働安全衛生法により、これまで「雇用している労働者」を中心に組み立てられていた安全衛生の枠組みが、同じ場所で働く個人事業者等にも広げられることになったためです。

前回の記事で扱った黒ナンバーの安全管理者制度が「委託先自身に義務を課す」改正だったのに対し、今回は「委託する側の責任範囲を広げる」改正です。両方を押さえて、はじめて委託関係全体のリスクが見えてきます。

なぜ「個人事業者等」が対象になったのか

きっかけのひとつは、2021年5月の建設アスベスト訴訟の最高裁判決です。厚生労働省の資料によれば、この判決で労働安全衛生法第22条(健康障害防止措置)は、労働者だけでなく同じ場所で働く労働者でない者も保護する趣旨と判断されました。これを受けて省令が改正され、さらに法律のレベルでも、個人事業者等自身による措置のあり方や注文者等による措置のあり方を整理する検討が進められてきました。

その結論が今回の改正です。厚生労働省は改正の趣旨について、個人事業者等の業務上災害の防止、ひいては同じ場で働く労働者の災害防止のため、個人事業者等を労働安全衛生法による保護対象・義務の主体として位置づけると説明しています。

「個人事業者等」の範囲に注意:厚生労働省の資料では、個人事業者のほか中小事業者の代表者や役員も対象とされています。一人親方やフリーランスだけの話ではなく、「社長が自らフォークリフトに乗る」「役員がトラックを運転する」といった中小企業でよくある働き方も視野に入った制度設計です。

いつ、何が変わるのか ― 段階施行のスケジュール

この改正は一度に全部が動くわけではなく、公布日から2027年4月まで段階的に施行されます。運送・物流に関係の深い項目を時系列で整理すると、次のようになります。

施行日 内容 誰の義務か
2025年5月14日
(公布日)
注文者等の配慮義務。施工方法・作業方法・工期・納期等について、安全で衛生的な作業の遂行を損なうおそれのある条件を付さないよう配慮 発注者・注文者
2026年4月1日
(施行済み)
混在作業場所における元方事業者等の措置義務の対象拡大。連絡調整等の対象が労働者から個人事業者等を含む作業従事者へ 元方事業者・作業場所を管理する者
2027年1月1日 個人事業者等の業務上災害の報告制度の創設 特定注文者・災害発生場所管理事業者等
2027年4月1日 個人事業者等自身が講じるべき措置(安全衛生教育の受講、機械等の使用制限、定期自主検査など) 個人事業者等本人

すでに施行されている項目があるという点に、まず注意してください。「2027年の話」と整理してしまうと、2026年4月からの措置義務が抜け落ちます。

運送・物流の現場ではどこに効いてくるか

倉庫・物流センターの構内作業

厚生労働省の資料には、業種を問わず労働者や個人事業者が混在する作業場所を管理する者に連絡調整等の措置を義務づける趣旨として、卸売業の事業者が、倉庫で作業する店員とフォークリフトで商品を搬出する運送業者が混在することによる事故を防ぐ、という例が挙げられています。物流の現場をほぼそのまま描写した例示です。

従来、この種の連絡調整は建設業・造船業を中心とした枠組みで整理されてきました。改正後は、荷主の倉庫、物流センター、配送デポなど、複数の事業者が入り乱れる場所全般が視野に入ります。

よくある場面

自社の物流センターに、協力会社のドライバーが集荷に来る。荷役は基本的にドライバー自身が行い、その脇では庫内スタッフがピッキングをしている。フォークリフトの動線と歩行者の動線が交差しているが、ドライバーは他社の人間なので朝礼にも安全教育にも参加していない——。

この構図で事故が起きたとき、「委託先の人だから」という説明は通りません。作業場所を管理している側に、連絡調整や周知の責任が及びます。

傭車・軽貨物への委託

個人事業主として働く傭車ドライバーや軽貨物ドライバーは、まさに「個人事業者等」です。自社の拠点で荷物の積み下ろしをしてもらう以上、そこは混在作業場所になり得ます。

とくに2027年1月からの業務上災害の報告制度は、実務への影響が具体的です。公表されている施行通達の内容によれば、個人事業者等が休業4日以上の死傷災害に遭った場合、死亡や入院などで本人が事実を伝えることが困難なときは、直近上位の注文者(特定注文者)が労働基準監督署に報告し、特定注文者が存在しないときは災害発生場所を管理する事業者等が報告することとされています。伝達が可能な場合は、本人から特定注文者へ報告し、その内容を踏まえて特定注文者が監督署に報告する流れです。

つまり、委託先で起きた事故を、委託した側が届け出る場面が出てくるということです。事故の一報が自社に上がってくる導線がないと、この義務は果たせません。

納期・スケジュールの設定

見落とされがちですが、公布日からすでに動いている配慮義務も重要です。仕事を他人に請け負わせる者は、施工方法・作業方法・工期・納期等について、安全で衛生的な作業の遂行を損なうおそれのある条件を付さないよう配慮しなければならないとされています。

運送に引き寄せれば、「物理的に守れない到着時刻」「休憩を取る余地のない配送スケジュール」を委託先に押しつけることが、この配慮義務に触れ得るということです。改善基準告示が自社ドライバーの拘束時間を縛るのに対し、こちらは委託先に無理を回す構造そのものに向けられています。

いま何から手をつけるか

制度が抽象的に見えるぶん、確認する項目を具体的に決めてしまうのが早道です。まずは自社の拠点で「誰が出入りしているか」を棚卸しするところから始めます。

自社拠点の混在作業チェックリスト

  • 自社拠点に出入りする外部の作業従事者(傭車・軽貨物・警備・清掃・構内請負など)を一覧化したか
  • そのうち個人事業主として働いている人を把握しているか
  • フォークリフトの動線と歩行者・ドライバーの動線が交差する箇所を洗い出したか
  • 外部の作業従事者にも危険箇所や立入禁止区域を周知する手段があるか(掲示・書面・入構時の説明など)
  • 周知した内容と方法を記録に残しているか
  • 委託先で事故が起きた際、自社に一報が入る連絡ルートを決めているか
  • 委託契約や配送スケジュールに、安全を損なう条件が入っていないか点検したか

周知の方法については、書面の交付、口頭での説明、現場への掲示など複数の手段を組み合わせることが望ましいとされています。重要なのは、実施したという事実が後から確認できる形にしておくことです。監査や事故調査で問われるのは、いつも「やったかどうか」ではなく「やった証跡があるか」だからです。

まとめ ― 「委託先だから」が通らない時代に

今回の改正を一言でいえば、安全衛生の責任範囲が雇用関係ではなく「同じ場所で働いているか」で線引きされる方向へ動いたということです。運送・物流のように、自社社員と協力会社と個人事業主が日常的に同じ構内で交錯する業種では、影響は建設業に劣りません。

2026年4月の措置義務はすでに施行済み、2027年1月には報告制度が控えています。残された準備期間は長くありません。まずは拠点ごとに「誰が、どこで、どんな作業をしているか」を可視化し、周知と記録の仕組みを整えるところから着手してみてください。

本記事は制度の概要をまとめたものです。個別の適用範囲や具体的な措置の内容については、厚生労働省の公表資料や所轄の労働基準監督署、社会保険労務士にご確認ください。

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参考:厚生労働省「労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律(令和7年法律第33号)の概要」

参考:厚生労働省「労働安全衛生法及び作業環境測定法改正の主なポイントについて」

参考:厚生労働省「労働安全衛生規則等の一部を改正する省令の施行について(個人事業者等の業務上災害の報告に係る規定関係)」(令和8年6月24日付け基発0624第5号)

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