運送・物流の安全管理

ドライバーの健康管理|健康起因事故を防ぐために事業者がすべきこと

点呼のときは元気そうに見えたドライバーが、運転中に突然意識を失う——。こうした「健康起因事故」は、運送・物流業界で近年増加傾向にあり、見過ごせないリスクになっています。心臓疾患や脳疾患などは、本人も気づかないうちに進行していることが多く、「毎日顔を合わせているから大丈夫」という感覚だけでは防ぎきれません。

ドライバーの健康管理は、事故を防ぐための取り組みであると同時に、事業者に法令で求められた義務でもあります。本記事では、健康起因事故の実態を押さえたうえで、事業者がやるべき健康管理を「健康診断・点呼・スクリーニング検査」の観点から整理します。

この記事でわかること

  • 健康起因事故の実態と、事故につながりやすい主な疾病
  • 事業者に求められる健康管理の3ステップ(健康診断・点呼・事後対応)
  • 深夜業のドライバーに必要な「年2回」の健康診断
  • 健康診断では見つけにくい疾病と、スクリーニング検査の考え方

健康起因事故とは ― 「見た目では分からない」リスク

健康起因事故とは、運転者の疾病により、事業用自動車の運転を継続できなくなった事案を指します。自動車事故報告規則に基づいて国土交通省へ報告された件数は令和3年以降、増加傾向に転じており、報告のうちおよそ3割が実際の交通事故(衝突・接触)に至っています。特にトラックやタクシーでは、事故につながる割合が高いことも指摘されています。

怖いのは、これらの疾病の多くが症状が出るまで自覚しにくい点です。国土交通省の報告データでは、過去10年間に健康起因事故を起こした運転者のうち、心臓疾患・脳疾患・大動脈瘤及び解離が約3割を占め、死亡に至った運転者では心臓疾患が約55%と過半数を占めています。

主な疾病特徴・注意点
心臓疾患・大血管疾患健康起因事故・死亡事案でともに最も多い。自覚症状が乏しいまま突然発症することがある。
脳血管疾患脳梗塞・くも膜下出血など。夏場の脱水や寒暖差もリスク。初期症状の周知が重要。
大動脈瘤・大動脈解離破裂・解離が突然起こり、死亡につながりやすい。
睡眠時無呼吸症候群(SAS)日中の強い眠気を招くが、通常の健康診断では発見が難しい。
視野障害(緑内障など)片眼や脳の補正で自覚しにくく、進行するまで気づきにくい。

事業者に求められる健康管理の3ステップ

貨物自動車運送事業では、運転者に健康診断を受診させて健康状態を把握し、点呼などを通じて日々の体調を確認し、必要な指導・措置を行うことが求められます。大きく次の3ステップで考えると整理しやすくなります。

① 健康診断を確実に受診させる

健康管理の出発点は、法定の健康診断を漏れなく受診させることです。特に見落とされがちなのが、深夜業を含むドライバーは「年2回」の健康診断が必要になる点です。

種類対象頻度
雇入れ時の健康診断常時使用する労働者雇入れ時
定期健康診断常時使用する労働者1年以内ごとに1回
特定業務従事者の健康診断深夜業を含む業務などに常時従事する者6ヶ月以内ごとに1回(=年2回)
深夜業とは:原則として午後10時〜午前5時の時間帯の業務で、これを常態的に(おおむね月4回以上など)行う場合が該当します。夜間・早朝の運行が多いドライバーは、特定業務従事者として年2回の健診対象になるケースが少なくありません。まずは自社のドライバーが該当するかを確認しましょう。

健康診断の結果は健康診断個人票として作成・保存し、勤務形態や運行実態と照らして管理することが大切です。

② 点呼で日々の体調を確認する

健康診断が「年に数回の定点観測」だとすれば、点呼は「毎日のチェック」です。業務前点呼では、酒気帯びの有無だけでなく、前日の睡眠時間・当日の体調・常備薬の服用状況などを具体的に聞き取り、平常時と比べて異常がないかを確認します。気温・気候の変化で体調を崩しやすい時期は、特に丁寧な確認が有効です。

③ 異常所見・診断結果に対応する

健康診断で異常所見が見つかった場合は、放置せず、医師(産業医など)から意見を聴き、必要に応じて就業上の措置を講じることが求められます。深夜業の回数を減らす、労働時間を短縮する、医療機関の受診を促すといった対応が考えられます。「所見が出たあとにどう動くか」を、あらかじめ社内のルールとして決めておくと、対応が遅れずに済みます。

健康診断だけでは防げない ― スクリーニング検査という考え方

通常の健康診断は重要ですが、SASや脳・心臓の疾患の中には、健康診断の標準項目だけでは見つけにくいものがあります。そこで、主要疾病を未病の段階で発見するための「スクリーニング検査」が推奨されています。国土交通省の「事業用自動車の運転者の健康管理マニュアル」でも、脳・心臓・消化器系疾患や睡眠障害などのスクリーニング検査の受診が呼びかけられています。

対象疾病スクリーニング検査の例
睡眠時無呼吸症候群(SAS)簡易検査(自宅で睡眠中の呼吸・酸素飽和度を測定)など
脳血管疾患脳ドック(脳MRI・MRA)など
心臓・大血管疾患心電図に加えた精密検査、血液・画像検査など
視野障害眼底検査・視野検査など

費用面がハードルになりがちですが、令和7年度からは国土交通省や業界団体による、脳血管疾患・心臓疾患・SASなどのスクリーニング検査の受診に対する補助も実施されています。活用できる制度がないか、所属するトラック協会などに確認するとよいでしょう。

睡眠不足・過労も見逃せないリスク ― 労働時間管理との関係

健康起因事故は、持病だけが原因とは限りません。睡眠不足や過労による集中力・判断力の低下も、重大事故につながります。長時間の拘束や不規則な勤務が続けば、体調を崩すリスクは高まります。

だからこそ、健康管理は労働時間の管理と切り離せません。改善基準告示で定められた拘束時間・休息期間を守り、適切な勤務シフトを組むこと自体が、健康起因事故の予防にもつながります。健康管理と勤怠管理は、同じ「安全」の両輪だといえます。

中小事業者が「まず」やるべきこと

大がかりな仕組みを一度に整える必要はありません。次の順で、できるところから固めていくのが実践的です。

  1. 定期健康診断の受診漏れをゼロにする
  2. 深夜業のドライバーが「年2回」の健診対象に該当しないか確認する
  3. 業務前点呼で、睡眠・体調・服薬を聞き取り、記録に残す
  4. SASや脳・心臓のスクリーニング検査の導入を検討する(補助制度も確認)
  5. 健診結果・点呼記録・労働時間をまとめて把握できる状態にする

健診結果や点呼での体調記録、労働時間がバラバラに管理されていると、「無理のある勤務が続いているドライバー」を見つけにくくなります。これらをまとめて把握できる仕組みが、健康起因事故の予防には効果的です。

ドライバーの健康管理と勤怠管理を、まとめて。

株式会社エバーグリーンは、運送・物流事業者向けに勤怠管理システムと安全管理コンサルティングを提供しています。点呼での体調記録・労働時間・健康管理をつなげて把握し、健康起因事故を防ぐ体制づくりをご支援します。

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