運送・物流の安全管理

運送・物流業の安全管理とは?法令で求められる6つの柱と始め方を解説

「2024年問題」を経て、運送・物流業界では長時間労働の是正とドライバー不足への対応が同時に求められています。その一方で、点呼やアルコールチェックの未実施を理由に大手事業者が事業許可の取消し方針を通知されるなど、安全管理体制の不備が事業の存続そのものを揺るがす事例も相次いでいます。

安全管理は「事故を防ぐための取り組み」であると同時に、「事業を続けるための法的な要件」でもあります。しかし、運行管理者・点呼・車両整備・健康管理…と関係する制度は幅広く、労務と安全を兼任することの多い現場担当者にとっては、全体像がつかみにくいのも実情です。

本記事では、運送・物流業の安全管理について、法令で求められる要件を「6つの柱」として整理し、どこから手をつければよいかまでを解説します。個別テーマの詳細は、関連記事で順に掘り下げていきます。

この記事でわかること

  • 運送・物流の安全管理が、どの法律にまたがる義務なのか
  • 法令が求める安全管理「6つの柱」の全体像
  • 安全管理を怠った場合の監査・行政処分のリスク
  • 中小事業者がまず何から始めればよいかの優先順位

そもそも「安全管理」とは ― 複数の法律にまたがる義務

運送事業の安全管理は、一つの法律で完結するものではありません。主に、次のような法律が関係します。

  • 貨物自動車運送事業法/貨物自動車運送事業輸送安全規則 … 運行管理者の選任、点呼、運転者への指導監督など、運行の安全確保
  • 道路運送車両法 … 車両の日常点検・定期点検・整備
  • 道路交通法 … 運転者の遵守事項、安全運転管理者(白ナンバー含む)
  • 労働基準法・改善基準告示 … 労働時間・拘束時間の管理(過労運転の防止)

これらが重なり合って、「安全に運行し続ける体制」を形づくっています。つまり安全管理とは、車両・運転者・運行のそれぞれについて、法令が定める基準を満たし、記録として残す一連の仕組みだといえます。

法令が求める安全管理「6つの柱」

運送・物流の安全管理で法令が求める内容は、大きく次の6つに整理できます。まずは全体像を一覧で確認しましょう。

主な内容 根拠となる主な法令 記録の保存
① 運行管理運行管理者の選任・点呼・指示・記録貨物自動車運送事業法/輸送安全規則
② 点呼乗務前後の点呼・健康状態の確認輸送安全規則1年
③ アルコールチェック酒気帯びの確認・検知器の使用輸送安全規則・道路交通法1年
④ 点検・整備日常点検・3ヶ月定期点検道路運送車両法1年
⑤ 健康管理健康診断・適性診断輸送安全規則・労働安全衛生法健診個人票5年
⑥ 指導・教育指導監督指針に基づく安全教育輸送安全規則・告示3年

① 運行管理者による運行管理

運行管理者は、営業所ごとに選任が義務づけられた「運行の安全確保の責任者」です。点呼、乗務割の作成、運転者への指導、休憩・睡眠施設の管理などを担います。選任すべき人数は、その営業所が持つ事業用自動車の数で決まります。

事業用自動車の数必要な運行管理者数
1〜29両1名
30〜59両2名
60〜89両3名
90〜119両4名
120両以上(車両数 ÷ 30)+ 1 ※端数切捨て

台数にトレーラー(被けん引車)は含めません。複数選任する場合は、うち1名を統括運行管理者として選任します。運行管理者には2年に1回の一般講習の受講も義務づけられています。

② 点呼の実施と記録

点呼は、乗務前・乗務後(必要に応じて中間点呼)に、運転者の健康状態・酒気帯びの有無・車両の状態などを確認する手続きで、対面が原則です。近年はIT点呼・遠隔点呼に加え、2023年に業務後自動点呼、2025年には業務前自動点呼も本格解禁され、ICTを活用した点呼の選択肢が広がっています。点呼記録は1年間の保存が必要です。

③ アルコールチェック

点呼とあわせて、運転者の酒気帯びの有無をアルコール検知器で確認し、結果を1年間記録・保存する必要があります。緑ナンバー(一般貨物)は以前から義務、白ナンバーも2023年12月から検知器の使用が義務化され、貨物軽自動車(黒ナンバー)でも2025年に安全対策が強化されました。未実施は重い行政処分につながり、近年は大手事業者が事業許可の取消し方針を通知された事例もあります。

④ 車両の点検・整備

安全な車両状態を保つため、道路運送車両法で点検・整備が義務づけられています。

  • 日常点検:運行開始前に1日1回実施
  • 定期点検:事業用自動車は3ヶ月ごと(3・6・9ヶ月)+12ヶ月点検

整備管理者を選任し、点検整備記録簿を作成して1年間保存します。点検未実施は車両停止などの処分対象となり、監査でも記録簿の提示を求められます。

⑤ 運転者の健康管理と適性診断

運転中の体調急変による「健康起因事故」を防ぐため、運転者の健康管理は安全管理の重要な柱です。

  • 健康診断:雇入れ時・定期の健康診断を確実に受診させる
  • 適性診断:初任運転者への「初任診断」、65歳以上への「適齢診断」、事故を起こした運転者への「特定診断」

睡眠不足や過労は健康起因事故のリスクを高めるため、労働時間の管理とも密接に関わります。健康管理と勤怠管理は、切り離せない関係にあります。

⑥ 運転者への指導・教育

事業者は「指導及び監督の指針」に基づき、運転者へ計画的な安全教育を行う義務があります。年間の教育計画を立てて実施し、記録を3年間保存します。加えて、初任運転者・事故惹起運転者・高齢運転者には「特別な指導」が求められます。

任意でも評価される取り組み ― 運輸安全マネジメントとGマーク

法令上の義務に加え、事業者が自主的に安全性を高める仕組みもあります。

  • 運輸安全マネジメント:経営トップが関与し、PDCAで安全管理体制を継続的に改善する制度
  • Gマーク(安全性優良事業所):全日本トラック協会が認定する制度で、取得すると荷主からの信頼や取引・採用の面で有利に働くことがある

これらは義務ではありませんが、取引先や採用面での差別化にもつながる、前向きな安全管理の取り組みです。

安全管理を怠るとどうなる ― 監査と行政処分

安全管理の不備は、運輸支局などによる監査で明らかになり、違反の内容・程度に応じて行政処分が科されます。処分は段階的に重くなります。

  • 車両の使用停止(〇日車)
  • 事業の停止
  • 事業許可の取消し

点呼・アルコールチェック・点検整備の記録は、監査でまず確認される項目です。記録の未作成や虚偽記載は、処分を重くする要因になります。「やっているのに記録が残っていない」状態は、監査で不利になりがちだという点に注意が必要です。

中小事業者は「まず何から」始めるか

すべてを一度に完璧にするのは現実的ではありません。優先順位をつけて、記録が残る仕組みから整えるのが実践的です。

  1. 点呼とアルコールチェックを毎回・確実に実施し、記録する
  2. 日常点検と3ヶ月定期点検を実施し、記録簿を保管する
  3. 健康診断・適性診断の受診漏れをなくす
  4. 年間の安全教育計画を立てて実施する
  5. 各種記録を電子化し、監査でいつでも提示できる状態にする

点呼・点検・労働時間などの記録をデジタルで一元管理することが、担当者の負担を増やさずに体制を固める近道になります。安全管理と勤怠管理をあわせて見直すことで、二度手間のない運用が実現できます。

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