勤怠・労務管理

2024年問題、ルールは知っていても守れない?──改善基準告示を勤怠管理に落とし込む方法

2024年4月、トラックドライバーの時間外労働に年960時間の上限が適用され、あわせて「改善基準告示」が改正されました。いわゆる「2024年問題」です。輸送力の不足や運賃の見直しといった経営面の話題が先行しがちですが、現場の労務担当にとって本当に頭が痛いのは、もっと地味で具体的な部分ではないでしょうか。

つまり——「拘束時間13時間」「休息期間11時間」といったルールは分かった。では、それを毎日の勤怠管理にどう落とし込めばいいのか、という点です。ルールを知っていることと、現場で守れていることは、まったく別の話です。

この記事では、改善基準告示の拘束時間・休息期間のルールを整理したうえで、それを実際の勤怠管理にどう反映させるか、運送会社の労務担当が押さえておきたいポイントを具体的に見ていきます。

そもそも「拘束時間」と「休息期間」とは

改善基準告示を勤怠管理に落とし込むには、まず2つの言葉の意味を正確に押さえる必要があります。よく混同されますが、別物です。

拘束時間は、始業時刻から終業時刻までの全時間を指します。実際に作業している時間(労働時間)だけでなく、休憩時間や手待ち時間、仮眠時間も含まれます。荷待ちでただ待っている時間も拘束時間にカウントされる、という点が現場では見落とされがちです。

休息期間は、勤務が終わってから次の勤務が始まるまでの、会社の拘束をいっさい受けない時間です。勤務と勤務の「あいだ」にある時間で、睡眠を含めてどう過ごすかは完全にドライバーの自由——いわば「勤務間インターバル」にあたります。拘束時間中にとる休憩とは性質がまったく違います。

改善基準告示の主なルール(トラック・2024年4月〜)

2024年4月から適用されているトラック運転者の基準のうち、勤怠管理に直結する主要なものを整理します。なお特例や例外規定も多いため、自社の運行形態に当てはめる際は厚生労働省のリーフレットや社会保険労務士に確認することをおすすめします。

① 拘束時間の上限

1日の拘束時間は原則13時間以内、延長する場合でも最大15時間までです(14時間を超える回数はできるだけ少なくし、週2回までが目安とされています)。1か月は原則284時間以内、1年は原則3,300時間以内です。労使協定を結べば1か月は最大310時間、1年は最大3,400時間まで延長できますが、284時間を超える月が連続3か月を超えないことなど、付帯する条件があります。

② 休息期間の下限

休息期間は、勤務終了後に継続11時間以上与えるよう努めることを基本とし、継続9時間を下回らないものとされています。改正前の「継続8時間以上」から引き上げられた、今回の改正の大きなポイントです。宿泊を伴う長距離貨物運送などには特例がありますが、原則は「次の始業までに最低9時間、できれば11時間あける」と覚えておくと実務に落としやすくなります。

③ 運転時間・連続運転時間

運転時間は2日平均で1日9時間以内、2週平均で1週44時間以内。連続運転時間は4時間以内とされ、運転の中断は1回おおむね連続10分以上・合計30分以上をとる必要があります。拘束時間とは別の軸で管理しなければならない点に注意が必要です。

ルールを「勤怠管理」にどう落とし込むか

ここからが本題です。上記のルールは、ただ数字を知っているだけでは守れません。日々の勤怠データの中で「いま何時間か」「あといくつ余裕があるか」を把握できて、初めて管理になります。主要ルールごとに、勤怠管理で実際に見るべきポイントを整理しました。

項目ルール(トラック・2024年4月〜)勤怠管理で見るべきポイント
1日の拘束時間原則13時間・最大15時間(14時間超は週2回まで目安)始業起算24時間での日跨ぎカウントが正しくできているか
1か月の拘束時間原則284時間(労使協定で最大310時間)月の途中で累計が見え、上限接近に気づけるか
1年の拘束時間原則3,300時間(最大3,400時間)年単位の累計を継続的に追えているか
休息期間継続11時間が基本・9時間が下限前日終業〜翌日始業の間隔を毎回確認できているか
連続運転時間4時間以内(中断は合計30分以上)運転と中断の実態を記録・把握できているか

注目してほしいのは、右の列がいずれも「日々の積み上げ」と「事前の気づき」を求めている点です。改善基準告示は、月末にまとめて集計して「超えていました」では意味がありません。超える前に気づき、翌日の運行計画やシフトを調整して初めて守れるルールなのです。

なぜ手集計・Excelでは回らないのか

結論から言えば、改善基準告示の管理は、手書きやExcelの自己申告では現実的にほぼ回りません。理由は大きく3つあります。

① 日跨ぎ・月またぎの累計が追えない

拘束時間は始業時刻から起算した24時間で数えるため、深夜0時をまたぐ勤務では「どちらの日にカウントするか」が手計算では一気にややこしくなります。さらに1か月284時間・1年3,300時間という累計は、毎日の積み上げをリアルタイムで足し続けなければ把握できません。Excelで毎日手入力していても、月の途中で「今日時点であと何時間か」を即座に答えられる会社は多くないはずです。

② 休息期間のチェックが抜け落ちる

休息期間は「前日の終業時刻」と「翌日の始業時刻」の差分を毎回計算しないと判定できません。これを全ドライバー分、毎日手作業で確認するのは非現実的です。結果として、休息期間は勤怠管理の中でもっとも見落とされやすい項目になっています。気づかないうちに9時間を割っていた、というケースは決して珍しくありません。

③ 上限を超えてからしか分からない

手集計の最大の弱点は「事後にしか分からない」ことです。月末に集計して初めて上限超過が判明しても、もう翌月にはなっています。改善基準告示は予防が前提のルールであるのに、手集計は構造的に予防ができません。

システム化で「事前に防ぐ」管理へ

勤怠システムを導入すると、これまで手作業では追いきれなかった部分が仕組みで解消されます。特に2024年問題への対応では、次の3点が効いてきます。

まず、上限接近のアラートです。1日・1か月・1年の拘束時間が上限に近づくと自動で警告が出るため、「超える前」に運行計画を調整できます。事後集計から事前予防へと、管理のかたちそのものが変わります。

次に、スマホ・GPSによる客観打刻です。直行直帰で事務所に出社しないドライバーでも、現在地とあわせて客観的に打刻できます。手書きや口頭申告に頼らずに済むため、記録の正確性が上がり、改ざんの余地もなくなります。

そして、拘束時間・休息期間・連続運転の自動集計です。日跨ぎのカウントも、前日終業から翌日始業までの休息期間も、システムが自動で計算します。労務担当が毎日電卓を叩く必要がなくなり、本来やるべき「計画の調整」に時間を使えるようになります。

自社の運行に落とし込む手順

「システム化」と聞くと大がかりに感じるかもしれませんが、いきなり全部を変える必要はありません。改善基準告示への対応は、次のような順序で進めるのが現実的です。

  1. 自社でいちばん超過リスクの高い項目を見極める(1日の拘束時間か、休息期間か、月の累計か)
  2. その項目について、いまどう記録・集計しているかを棚卸しする
  3. まず一部の拠点・一部のドライバーで、客観打刻と自動集計を試す
  4. アラートが実際の運行調整に使えるかを現場で確認する
  5. 問題なく回ることを確認してから、全社・全ドライバーへ広げる

大事なのは、最初から完璧な管理体制を目指すことではなく、「いちばん超過しやすいところ」から手をつけることです。

まとめ

改善基準告示の拘束時間・休息期間は、ルールを知っているだけでは守れません。日々の勤怠データの中で累計を追い、上限に近づく前に気づき、運行計画を調整して初めて守れるルールです。そしてこの「事前に気づく」管理は、手書きやExcelの事後集計では構造的に実現が難しいのが実情です。

2024年問題への対応は、運賃や輸送力といった経営課題であると同時に、足元の勤怠管理をどう仕組み化するかという実務課題でもあります。まずは「自社でいちばん超過しやすいのはどの項目か」を見極めるところから始めてみてください。そこが、改善基準告示に対応した勤怠管理の出発点になります。

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